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生理用品無料配布と貧困について考える

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まったりヤフーニュースを眺めていると、目についた生理用品をトイレで“無料提供”するサービスが今夏始動…女性の負担軽減し「存在を感じない存在に」(FNNプライムオンライン) という記事。

 

news.yahoo.co.jp

記事としては、女性のみの経済的負担となる「生理用ナプキン」。その負担を軽減するために、広告を財源として無料配布できるビジネスモデルを実現できそうだ、という内容だ。しかし、この生地のヤフーコメントがちょっと荒れ気味だったので、ウォッチしてみたい。

生理用ナプキンをスマホアプリをつかって無料で受け取れる

このサービスは、オイテル株式会社の「Free pad dispenser OiTr(オイテル)」というもの。利用方法は、スマホにアプリをダウンロードして認証し、配布装置から取り出すという流れだ。

 

ひとまず、紹介ニュースだけでなく、プレスリリースもあるので、こちらも確認しておこう。

 

prtimes.jp

 

このリリースにるよると、

私たちのサービスは、生理のある人が強いられるさまざまな負担のうち、生理用品を購入する経済的負担と持ち歩く労力を幾分まかなえないか、という思いから生まれました。このサービスを生理に伴う負担軽減に役立てていただき、経済格差やジェンダーギャップといった不均衡の是正に寄与したい。未来を語り、共感し、信頼し合える存在でありたい。私たちはそう願って、OiTrの普及に取り組んでいます。

ということが、開発の理念になっている。なお、ニュース記事のリードにある「生理の貧困」には特に触れていない。

 

なぜ、そこに触れるかというと、コメント欄があれた一因だからだ。

”生理の貧困”対策なのになぜスマホがいるのか?

コメント欄で荒れていたのは、「困窮対策ならばアプリによる配布では本当の貧困に苦しむ人が受け取れない」「補助を与えたり、公共施設で無料配布すべきだ。」「スマホを持っているのに、ナプキンがかえないのはおかしい」「トイレットペーパーが商業施設のトイレにあるのは、当たり前では無く施設のサービスだ」といった主張だ。

 

しかし、そもそもこのサービス「生理の貧困」を無くすために産まれたサービスではない。引用した中にもあるように「経済格差やジェンダーギャップ」を是正するのに貢献したいというものだ。実際ニュース本文中でも以下のように担当者が語っている。

OiTrのサービスは「ジェンダーギャップという社会課題の不均衡の是正に寄与したい」という思いからスタートした事業であるので、「生理の貧困」について深く語ることはできませんが、生理のある人のすべてに同じように生理用品の負担(生涯で約50万の負担)があること考えると、賃金格差がある社会において負担も大きいかと考えます。

大切なのは、女性だけが強いられている負担を軽くすること、であって貧困層をたすけることが主眼では無い。よって、スマホをもっているから貧困対策にはならない、という批判は的外れだ。

経済的負担の軽減というところで、OiTrのサービスが今回の「生理の貧困」の解決策の一つとして受け止めていただいたと思っております。

この担当者の発言からも、結果として「生理の貧困」解決に役立っているというのが正しい受取方だろう。

行政がすべきことを企業に求めるのは筋違い

そもそも、このサービスは一企業による社会貢献のためのサービスだ。貧困救済のためのセーフティネットは、社会として何より行政がすべきことだし、コメントにあるような「助成金」や「公共施設のでの無料配布」は、行政に求めていく政治活動だ。

 

確かに企業による寄付でも一時的な解決にはなるかもしれない。しかし、それは企業に市民が求めることでは無く、企業が自発的な善意で行うことでは無いだろうか。そもそもこのサービスは、広告を収入とすることで新しいビジネスモデルをつくり、持続可能、さらには拡大可能なサービスを想定している。そこにこそ、価値がある。

生理用品をつかった広告モデルは少ない?

今回、生理用品を無料配布する広告モデルと聞いて、比較として頭に浮かんだのが販促用のポケットティッシュ。一時期よりは街中で見かけなくなったが、それでも手にする機会はまだ多い。

 

生理用ナプキンならば女性にターゲットが絞れたマーケティングができるのではないか?と素人考えてに思ったのだが、ノベリティグッズを扱っている企業をいくつか見たが商品ラインナップには見当たらなかった。

 

過去にプロモーションで配布された事例はないのか、と思い調べてみた結果、以下の事例が見つかった。

www.advertimes.com

これは女性向けファッション誌『SPUR(シュプール)』が、創刊30周年記念に渋谷で2019年に行った。大きな看板にたくさんの生理用ナプキンが貼られ、それを取り外して持ち帰れるという広告だ。

 

この際でも、生理に関わるものを見たくない、という人に配慮するなどの工夫がとられており、簡単に配布するというのは難しいということがうかがえた。

 

日本という社会では、そもそも生理について、オープンな場で見せたり、話したりするのが忌避される傾向がある。筆者は男性なので、そもそも自分の体験で受け取ることはできないし、女性の間でどのような扱われているのかもわからない。

 

ただ今回のOiTrが広まれば、女性をターゲットに生理用品を使った広告という選択肢が増える可能性がある。そうすれば、無料配布の販促ツールとして使われ、結果的に無料で生理用ナプキンを入手する機会も増える可能性もある。そのためにもOiTrの設置が増え、まずはOiTrがあちこちで利用でき、広告効果もあるというwin-winな結果が得られるのが理想だ。

なぜフジは「生理の貧困」対策のニュースを強調したのか

さてコメント欄があれた原因となるキーワード「生理の貧困」を、なぜフジは強調したのか。ヒントは、過去のニュースにあった。残念ながら本サイトは消えてしまっていたので、インターネットアーカイブをリンクする。

web.archive.org

このニュース、最初に貼ったプレスリリースの発表よりも先に出たというのもポイント。このときすでに、フジのニュースではストーリーとして「生理の貧困」支援としてのサービスができていたのだ。

 

なにせ、世界の生理の貧困対策を紹介して、日本でも民間から支援が行われている、という中の一つにOiTrをあげているからだ。

 

OiTrはリリースを出す前に、実証テストを開始している。公式サイトのニュースをみると実証テスト開始の次に、このフジのニュースを取り上げている。すなわち、その段階で取材がおこなわれ、リリースにない情報も受け取っているのだろう。

 

また公式サイトのCOOとマネージャーのメッセージを読むと「生理の貧困」についても触れている。

OiTrの存在が“あたりまえ”の世の中になることを夢見ています。海外では「生理の貧困」が深刻化している現状があり、様々なメディアで取り上げられています。2020年11月にはスコットランドが世界で初めて「生理用品無償化」の法案可決され、2021年2月には、ニュージーランドもそれに追随しました。また、日本では負担軽減求める声があがっています。OiTrは国内外問わず「必要とするすべての人に生理用品が行き届く社会」になることを心から願っています。

 しかし、そもそもサービスを考える上での最初にあったのは、

「あなたによくて、社会にいいこと」という経営理念

であり、それを進めていくと

様々な社会課題に触れる中、ジェンダーギャップ・経済格差などの問題は、私自身も身近で感じることができるものでした。情報を集める中で「トイレットペーパーは常備されているのに、なぜ生理用品は常備されていないのでしょうか?」という記事に出会ったんです。そもそも、私自身には生理がないので、これは思いもよらない課題だったんです。これまでの“あたりまえ”も、よく考えてみれば変なことも多い。この“おかしなあたりまえ”を更新して、更新後の状態を“よいあたりまえ”として定着させたい。それが、プロジェクトの根幹になりました。

 とプロジェクトが生まれている。やはり主眼となるのは「ジェンダーギャップ・経済格差」であり、その結果としての「生理の貧困」だったように見える。

 

ニュースとして、日本の「生理の貧困」対策を紹介したかったフジ。それに対して、結果として「生理の貧困」対策になっていたOiTrが選ばれた、という流れがあったことで、フジにとっては「生理の貧困」問題とOiTrが強く結びついているのだろう。

 

「貧困」と「スマホ

しかし「貧困」という言葉の強さから、記事全体を読む前に「貧困対策」と「スマホ」の関係に注目があつまり、深く読まずにコメントするというヤフーコメントでありがちなことが起きたのではないか。

 

この「貧困」と「スマホ」という2つの関係も、難しい。スマホをもっているのなら、貧困では無い、という論調で思い出すのがNHKの貧困女子高生炎上事件だ。

www.buzzfeed.com

gendai.ismedia.jp

dot.asahi.com

そもそも「貧困」というキーワードは、「こんなのは貧困では無い」というバッシングを悲しいことに受けやすい。

 

「自分はもっと大変だった」という話になったり、「〇〇を持てる/やれるくらいなら、それくらい買えるだろう」という話になったりする。しかし、「相対的貧困」という考えでは、社会の平均的な暮らしを送れないことが貧困だ。

 

日常に必要な生理用品を買うために、世間一般では持っている人が多くなったスマホを持てなかったり、デパートなどの商業施設に行くことが贅沢と言われてしまったら、それは問題だ。

 

そんな貧困という問題に対する意識が、社会で育っていないというのも、今回のコメント欄からはみることができた。

何はともあれ生理用品の無料化という一歩が成功してほしい

話を戻して、男性には必要がないのに女性には一生の長い間必要になる消耗品「生理用品」。それは大きなジェンダーギャップだ。

 

女性であれば等しくかかる固定費となれば、経済格差を広げることになる。収入に占める割合が、収入が低いほど大きくなるからだ。世帯収入で考えれば、女性が少ない世帯と多い世帯では、他の状況が等しくても負担が変わってくる。

 

その差を小さくするためには社会で負担をしていくのが望ましい。その中で、負担する企業は広告効果が期待できメリットがあり、生理用品を受け取る女性も広告を見た対価として受け取れる、お互いにメリットがあり、経済がまわっていくのであれば、持続可能な社会貢献として理想だ。

 

そもそも昔の公衆トイレにはトイレットペーパーが有料だったり、そもそもトイレの利用にお金がかかる有料トイレすらあった。今では、多くのトイレが無料で綺麗でトイレットペーパーが備わっている。さらには、洗浄機能つき便座や消音機能を備えていることも増えている。

 

トイレの無料サービスは、日々進化し快適になっているのだ。その快適なサービスに、生理用ナプキンが加わり、当たり前のように受け取れる日が来ることだって十分考えられるのだ。